金歯銀歯

近年の審美歯科はものすごいスピードで進化しています。特に被せ物は、いかに見た目に美しいか、天然の歯のような仕上がりになるか、強度は十分か、などいろいろな視点での完成度は高くなる一方です。
もちろん完成度と比例して費用も高額化してきました。最近では、奥歯では自由診療で歯科認めらなかった『白い被せ物』が、ニーズの高まりにより保険適用となるなど時代に即した改定が行われています。

長い歯科治療の歴史の中で日本では1938年に法によって保険制度が施行され、歯科における保険で認められる被せ物は12%金銀パラジウム合金を使った「銀歯」を使うことと定められました。
それから現在に至るまで、文字通り銀色の金属製の被せ物であるこの銀歯が長く使われてきたのです。おそらく治療経験のある大多数の人がいくつかの銀歯を装着しているでしょう。
金属製の被せ物には、保険で入れられる銀歯の他に選択肢のひとつとして「金歯」が選べます。金歯とはまさに金(ゴールド)で作られた被せ物です。こちらは保険が適用されず自由診療となります。

ところで、海外ではあまり見かけない金歯や銀歯ですが、なぜ日本では今も採用されているのでしょうか。
実際に、日本在住のエジプト人女性が歯科医院を受診した際、虫歯の治療で保険を使うなら銀歯になることを説明したところ、「自国では銀歯は低所得層の人が入れるものだから嫌だ」と断固拒否したというケースがあります。
海外では、銀歯や金歯ではなく白い被せ物が比較的安価で入れられることから主流となっており、日本の歯科治療は他国より遅れているという声もあるほどです。
とはいえ、そもそも海外には日本のような保険制度がないので治療の全てが高額であり、同じ自由診療なら白い被せ物を選択することは容易に想像できますね。
それでも日本で採用されているのにはなぜでしょう。
そこで、「銀歯」や「銀歯」の歴史やメリットとデメリットなどを解説していきます。

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保険が適用される銀歯

銀歯

銀歯は、これまで治療経験のある日本人なら誰もが知っていますね。
保険で使用される銀歯は『12%金銀パラジウム合金』という金属から作られています。
業界で「金パラ」とか「パラ」と呼ばれるこの合金は、金・銀・パラジウム・銅などを規定量混ぜたものです。その組成で最も多いのは銀ですが、実は金も含まれています。
100%銀製ではないこの合金が銀歯と呼ばれるようになった理由は、単純に色が銀色であるからに他ならないでしょう。

■メリット
・強度が強い
・保険が適用されるので安い

■デメリット
・見た目がよくない
・精度が比較的甘いので二次う蝕に注意が必要
・経年や食生活によって変色や腐食が起こることがある
・金属イオンが溶出して歯肉などにメタルタトゥーと呼ばれる変色を起こすことがある
・金属アレルギーを引き起こすことがある

保険が適用されない金歯

金歯のブリッジ

金歯とは、いわゆる金色の被せ物のことをいいます。使われる材料はほぼ金ですが、純金ではなく18金や24金、または白金加金が使用されています。
白金加金とは、金を主成分として白金や銀、銅などを混ぜた合金のことです。ではなぜ純金を使わないのでしょうか。

もともと金はとても柔らかい金属です。そのため、もし純金で金歯を作ったら短期間ですり減って穴が開いたり壊れたりしてしまうでしょう。
そこで、他の金属を少し混ぜることで天然の歯に近い強度を実現し、金のメリットを十分発揮できるようにしてあるのです。
昔、前歯にわざわざ金歯を入れるのが流行った時代がありました。開面金冠や額縁冠などとよばれるその被せ物は、今ではほとんど見かけなくなりました。たまに高齢の方でいまだにそのまま入れている方がいらっしゃいます。当時はこれを入れるのがステイタスだった、という話を聞いたことがあります。
時代は変わり、いまは歯を白くするのがステイタスの時代ですが、金は被せ物に最適な金属といわれています。
患者さんに一番おすすめの材料はなんですか?と聞かれたら「金です」と答える先生も少なくないでしょう。

■メリット
・強度が強い
・金属が柔らかいので適合性が高く二次う蝕になりにくい
・安定した金属なので金属アレルギーが起こりにくい

■デメリット
・見た目がよくない
(ただ『金』というステイタス感はありますね)
・保険が適用されないので高価

なぜ金属の歯を入れるようになったのか

世界的に虫歯や歯周病の歴史は非常に古く、紀元前5000年ごろには既に虫歯の概念があったことが分かっています。また、日本でも縄文時代には既に虫歯があったとされています。
このような虫歯や歯周病の歴史に伴って歯の治療も行われてきました。古代ローマでは、金冠やブリッジ、義歯なども作られていたそうです。
ところで、日本における銀歯や金歯の歴史は、保険制度と大きく関係しています。
日本では、1961年に銀歯が使われるようになりました。1961年は、日本で「国民皆保険」という現在の健康保険制度の前身が始まった年です。
戦後まだ物資が足りなかったこの時代に、歯の修復の材料として比較的安価であった12%金銀パラジウム合金を保険適用の材料として使うことが定められました。
それから約60年、いまもなおこの制度は変わることなく引き継がれています。

銀歯や金歯の現状

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世界的に見ると、パラジウムを含む金属を使っている国は減少傾向にあります。その理由は、安全性への疑問、見た目の悪さ、さらに金属の価格高騰にあります。
近年、金やパラジウムなどの金属の需要が高まり、価格がどんどん上がっています。
しかし、日本は保険という法に基づいた制度の中で診療をすることが求められており、その点数内に収まるように調整しなければ歯科医院は経営がひっ迫してしまいます。
材料費は上がる一方なのに保険点数は追い付かないという現状の中、採算を上げるための経営努力を余儀なくされます。
大急ぎで作られた保険の銀歯は当然精度が落ちることもありますし、点数を稼ぐために多くの患者さんをこなさなければならないため装着する際の調整も時間内に急いで行わなければいけません。
そのため、二次う蝕率が高くなったり噛み合わせの異常による不具合などが起こることもあります。
また、パラジウムなどの安定していない金属に対するアレルギー反応も懸念されています。
このような保険の問題点は以前から叫ばれてきましたが、保険を使わない金歯ともなると少々状況が異なります。現在金の価格はどんどん高騰しており、最近は金の被せ物の価格を「時価」とする歯科医院もあるようです。
高額な費用がかかる自費診療では、作られたものの精度も高く、装着の際の調整にも細心の注意が払われます。
さらに金の持つ性質上使えば使うほど歯にフィットしていくので二次う蝕のリスクがかなり減るのは当然のことかもしれません。

まとめ

被せ物に使われる銀歯や金歯には、それぞれにメリットやデメリットがあることがわかりました。
賛否両論ある銀歯も、日本ならではの健康保険制度によって格安で治療ができるという大きなメリットに後押しされ、今も歯科治療の大黒柱として使われています。
ただ、歯科医療の進歩によって、治療の選択肢はどんどん増えてその品質や精度も向上しています。それと並行して費用も上がっていますが、治療を受ける患者さんの選択肢が増えたことは歓迎すべきことでしょう。

自分が希望している治療に最も近い方法を選び、それに見合うメンテナンスのやり方について指導を受け実践し、定期検診を受けることが今の歯科治療のベストな方法だと考えられます。
自費でどれだけいい治療をしても永久的なものではなく、定期的なメンテナンスが行われていなければまた虫歯や歯周病になってしまうこともあることを忘れてはいけません。

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